その5「勘」

長年、演出という役割を担っていて、
俳優の演技に対するアプローチは3つに別れることが判った。

思考…論理的に物事を捉えたり組み立てる。
感覚…感じるままに動いてみる。
体験…修練、経験したことを再生する。

ちなみに、
このどれにも属さないのは
「無能」だということもわかった。

俳優は、
この3つを使い分けたりバランスをとったりする。
もしくは、その人物の偏りがあったりする。
バランスをとるのが難しい。

思考だけの演技は、説明的になりがち。
感覚だけの演技は、心理的になりがち。
体験だけの演技は、観念的になりがち。

そして、この3つのバランスが、
人間の「勘」というものを形成する。
「勘」とは…判断する能力、注意力、気付きのこと。
第六感とは違う。

一つの例が、
人間関係を顕著に表す『距離勘』というもの。

お芝居での人物の関係性は、互いの「距離」でほぼ決まる。
親子の距離、恋人同士の距離、友人の距離…
新婚なのか離婚寸前の夫婦なのか…

正解はないけれども、
「思考」「感覚」「体験」から判断し
『距離勘』をはかるのだ。

『勘』があれば、舞台の立ち位置(ミザンス・ミザンセーヌと言う)も
演出家に指示されなくても動けるようになる。

そのためには、
本を読み
文章を書き
音楽や絵画を鑑賞し
自然を愛し
人間を観察し
身体を鍛える
そして
自分を知ること。

『勘』は、
日常生活で養われるのだ。
『勘』は、
繰り返し稽古することで養われるのだ。