シンクロナイズ・プロデュース ヒストリー 8

これまでのシンクロナイズ・プロデュースの今頃のルーティンスケジュールでは…
来年の劇場をもうすでに押さえてあって、
スタッフのスケジュールも確保して、
公演の企画書のラフ案も出来ていて、
オーディション情報をそろそろ準備して、
といった諸々がすでにスタートしていました。

私自身も、今頃に来年の舞台のスケジュールが決まっていないという体験は25年の役者人生で初めてです。
なんだかタンポポの綿毛のように、風に乗った気分とでもいいましょうか。気持ちの良いもんですね。

さてさて、6年前。
「オリジナル創作しばらくやめる」といって久次米さんが企画書をあげてきたのが「次への回路」シリーズ。
回路とは、エネルギー・物質などが出て、再び元の場所に戻るまでの道筋のこと。
文学作品を紐解き解体し演劇にするという創作スタイルは、今までと全く違うアプローチでした。

2008年
シンクロナイズ・プロデュース次への回路#1
『夏の路地』

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久次米さんの大学時代の恩師であり、非常に影響も受けた芥川賞作家である中上健次原作の「岬」「枯木灘」を礎に作った作品。
閉鎖された土地を舞台に繰り広げられる血族と骨肉を描いた逃げ場のない作品で「ほんまにこんな作品するの!」と役者全員苦しみ身を切られるような思いをしながら、小説を深く読み込み、台詞を起こし、シーンの抜粋などをして、ひとつひとつ丁寧に作った作品でした。
上演時間も休憩を挟む2時間を超える長編で、あまりに複雑な人間関係に休憩中お客様がパンフレットの相関図と睨めっこ、観終わった後はグッタリ。
今までのシンクロナイズ・プロデュースとは全く違う衝撃的な作品でした。
「血」を描いた作品だった為に、自分の出生や生い立ちを深く考えさせられました。
『夏の路地』はシンクロが最後にベニサンピットで上演した思い出深い作品となり、翌年ベニサンピットは取り壊されました。


2009年
シンクロナイズ・プロデュース次ヘの回路#3
『異邦人~エトランジェ~』

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アルベール・カミュの「異邦人」を礎に舞台化。不条理で難解といわれる作品です。
小説として読むと非常に自分とは遠い人間に、あまり共感できない人間のように感じるの人も多いと思うのですが、
主人公のムルソーは、いたって普通に隣に存在している人間だということがよくわかります。
そして自分自身の中にも「生きることは死ぬことと同じ」と熱くもなく寒くもなく日々を過ごしてるムルソーがいることにやがて気づきます。
しかしムルソーの「この世のやさしい無関心に心をひらいた」という最後の台詞、ワタクシ大好きです。
本当に死ぬとき彼は初めて生きたいという本心に気付いたからです。
この頃から、シンクロナイズ・プロデュースの舞台はまるで絵画のように美しいと評されることがちらほら。抽象舞台なのにです。
古典離れ文学離れしている昨今、良い作品にはやはり力があるし、美しいということが背景にあったかったからだと思います。


2011年
シンクロナイズ・プロデュース次ヘの回路#5
『愚鈍起承転浪漫譚(ぐどんきしょうてんろまんたん)』

 

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セルバンテスの「ドン・キホーテ」前編後編からなるものすごくぶ厚い古典を題材に久次米が現代版にアレンジしました。
ドン・キホーテは世界で聖書の次に多くの人に読まれている小説だと言われていて挑戦するにはとても勇気のいる作品なのですが、実はドン・キホーテの作品に決定したのは、3.11の後でした。
今回の吉祥寺シアターでは久しぶりに久次米さんが書き下ろす作品をする予定にしており、その題名も既に決まっていました。
それが「地球と爆弾」。
そんな題名をつけていた矢先に震災と原発事故が起こり、「現実が虚構を超えてしまった、これじゃあ芝居が作れない」と急遽作品を変更することになりました。
そして選んだのが妄想の中、愛と希望と夢を追い続ける遍歴の騎士ドン・キホーテ・デ・ラマンチャ。
『どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない。災難に合わせて、必ず一方の扉を開けて、救いの道を残している。』と言ったドン・キホーテの言葉を借りて、これから始まるであろう困難な時代に、どこまでも「愛」で立ち向かっていく覚悟を舞台に込めた作品になりました。

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その他にも「焼け跡のイエス」「タニンノカオ」「カルメン」といった作品では今までとは違うアプローチで作品づくりに取り組みました。
これらの、次への回路で上演した作品たちは、本質をどのような表現スタイルで舞台化すれば面白いかを考えながら作った作品ばかりで、とても面白い試みとなりました。


そして今回の最終公演。
2014年
シンクロナイズ・プロデュース第28回(最終)公演
『同級生たち』

回路を辿り終えて再び元の場所に戻ってのシンクロナイズ・プロデュース最後の書き下ろし作品。

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公演にかけた思いは、毎日の稽古場日記で皆様にはお伝え出来たと思っています。


その「上演」が終わり、決算と片付けをして「公演」が終わり、そして今、18年間の稽古場の片付けをしています。
セリフにありましたが、ワタクシ、「片付けの途中で昔の手紙とか読み出して片付かないタイプ」ではないので、全部の全部捨ててます、ポポイのポイ。
まず、18年間の公演資料その他綺麗にズラッとファイリングしていたもの全部、衣装全部、大道具小道具全部、材料塗料その他全部、ドアや床や壁も全部!本気で全部捨てています。
各方面の劇団さんや演劇関係者が引き取りに来てくださっています。
この物たちがまた別の場所でいのちを吹き込まれ舞台に生かされることを本当に嬉しく思います。

そして最後に残るのは…「The Empty Spase」…何もない空間。
何もない空間に、何かが生まれる秘訣、それは、「言葉」です。
無から有を生み出す力は「言葉」です。そして、その言葉を「信じる」。と「力」になります。


設立当初から、
『シンクロナイズ・プロデュースは、 さまざまなジャンルのクリエーターたちが手を結び、その融合から新たな作品創造を展開していくことを目的に、1997年4月に結成した企画集団で、演劇を基軸にジャンルを超えた企画をプロデュースし、既成の形式にとらわれない作品創造に取り組みます』と紹介してきました。
この言葉ともお別れです。

私の演劇の先生は「演劇は再生復活の芸術だ」と教えてくれました。
何度でもやりなおしがきくごっこ遊びが原点です。
最終公演の稽古場では最年少の仲間が3歳の子供でした。
遊びをせんとや生れけむ、戯れせんとや生れけん、遊ぶ子供の声きけば、我が身さえ こそ動がるれ。(梁塵秘抄)
お芝居だって、人生だって、何度でもやり直しがきく!

最後に皆様、本当にこれまでシンクロナイズ・プロデュースの作品を観に劇場に足を御運び下さいましてありがとうございました。
至福の時間でした。至福の18年間でした。心から感謝します。

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シンクロナイズ・プロデュース
水谷 純子