シンクロナイズ・プロデュース ヒストリー5

近年のシンクロナイズ・プロデュース、出演者は女優よりも男優が圧倒的に多い。
男優が多いと舞台も力強く、演出的にもダイナミック、裏方では力仕事をお任せできるので、女優陣はありがたいのですが、その半面、稽古場はむさ苦しく、そして少々お下品になることも。
まぁそれでも、シンクロの稽古場は上品な部類だとは思うのですが…(笑)

冬の花火

さてさて、13年前。
そんなシンクロナイズ・プロデュース、実は初期は女優だけのお芝居を創っていました。
女優二人で演じた「empty」の後、2000年1月には女性が5人に増えて「冬の花火」という作品がアトリエプレビューとして上演されました。
親の命日に久しぶりに実家に集まる5人姉妹のお話。
この作品、殊の外評判が良く2002年に劇場版として再演されました。
それまでアトリエプレビュー(稽古場公演)を重ねてきたシンクロナイズ・プロデュースも、2001年から劇場で公演をするようになりました。

kyo-ko2001年1月 シンクロナイズ・プロデュース第7回公演 「Kyo-ko」
作・演出:久次米健太郎
出演:井上加奈子 水谷純子 西村いづみ 上仁牧子 薬師神みゆき

この作品は、おばあちゃんの少女時代と現在が交差して綴られるものがたり。蘇州夜曲が全編に流れ、ノスタルジック、お客様は最後涙がぽろり。

ドラマ(Drama)には、よくヒロイン(Heroine)という女性キャラクターが出てきます。
悲劇の女性や主人公のの恋人など、きっと皆さんも「ヒロイン」という言葉を聴くと何か漠然としたイメージが思い浮かぶと思います。
朝ドラのように、きっと男性から見る女性には理想化された「夢」があるのでしょう、女性だって「ああ、あんな素敵な女性になりたいわん」と思うわけです。
が、しかしです。
シンクロの作品に登場する女性たちには、そんな美しい夢はかけらもありません。あしからず。
作・演出家久次米さんの女性に対する目、理想も夢もへったくれも全く無いのが作品によくでています。

夜明けの前に 1例えば…
第8回公演「夜明けの前に…」という作品は、場末のバー、台風で客が1人も来ない大嵐の夜、ママとホステス達がそれぞれの背景を抱えながら、泣いて笑ってけんかして、人生の岐路を愁ふ出会いと別れの素敵な作品なのですが、出てくるキャラクターは面倒くさい、どんくさい、うさんくさい、うるさい、滑稽な女性達。


夜明けの前に 2~稽古風景~
西村:セリフの練習をしながら登場「わたしはかもめ、わ・た・し・は、かーもめ、かもめ」
久次米:「ち、ちょっと、いずみちゃん、ブラジャーの肩紐パチンパチンいわせながら出てきて!」
西村:「は??なんて?」
久次米:「女の人、ブラジャーの紐直したり、パンツの食い込み直したりするとき、よくゴムパチンっていわすやろ、あれやって」
西村:「むむ。わかったわ。」
西村:セリフの練習をしながら再び登場「わたしはかもめ、」パチン「わ・た・し・」パチン「は、かーもめ、かもめ」パチン
これが、男性客だけに大うけ。
女性客は「?」って感じ。これで、西村の演じた役柄が一発で見えました。
オーディションのセリフの練習をしている女優志望のホステスさんという役の箱書きよりも、この女性の粗雑な感じが出ることで、なぜ、オーディションに落ちてばっかりかまで、無意識のうちにお客様は想像することができます。
小説でもない朗読でもない、演劇の身体言語たる所以です。

夜明けの前に 3この作品で一番大変だった稽古は、全員カップラーメンを食べながら、このセリフ稽古を聞いてあげるというシーン。
いろんなことを同時にしながら、気が散って、話が脱線していくという、これも、女性ならではの重要なシーン。
誰かがズルズルいってすすっている間に、セリフを言いながらズルズルして、るときに肉と卵を交換して、るときに本のページをめくりながら、ズルズル、それではあかん、動物の鳴きまねしたらえーねん、わたしがやったる、あんた見とき、ズルズル、寒い国の話やからロシア風に巻き舌でせりふ言えばいいで、トゥルゥ、トゥルゥ、ズルズル…
これを4人の掛け合いで毎回同じタイミングで食べる量まで決めて演じるとなると、稽古で食べたカップラーメンの量たるや…。
無対象で稽古して成立するような簡単な芝居ではなかったのです。
このおかげで、上仁さんは一生カップラーメンが食べたくないからだになってしまうという後遺症付き。

久次米さんの女性の本質を描く演出が、溜息の向こう側に、なんともいえない愛らしさと強さを浮かび立たせ、そして女性という生き物がなんだかいじらしい愛すべき存在に思われてくるのです。
観劇後、お客様は家に帰って妻を見ながら、彼女を見ながら、母を見ながら、優しく苦笑いするのです。「しゃーないなぁ」と。

そんな女優だけのお芝居が、2002年の第11回公演まで続きましたが、「女だけもうあきた、地球には男もおる」ということで、ついに男性が登場します。

つづく
水谷 純子